っていらっしゃるのです、顔色も悪いじゃありませんか」
桑は言った。
「そうかなあ、自分では解らないが」
蓮香はそこで挨拶して帰って往った。帰る時十日目に逢おうという約束をした。蓮香の帰った後で李がまた来た。李の来るのは毎晩でこない晩はなかった。ある夜李が言った。
「あなたの好い人は、この比《ごろ》、ちっともお顔を見せないじゃないの」
桑はそこで、
「十日目にくるという約束をしてあるのだよ」
と言った。すると李が笑って言った。
「あなたは、私と蓮香さんと、どっちが佳い女だと思いますの」
「それは、どっちも佳い女だよ、ただ蓮香の方は肌が温かだがね」
と桑は言った。李は顔色を変えて、
「あなたは、どっちも佳い女だとおっしゃるのですが、それは私に言うからでしょ、蓮香さんは月宮殿の仙女だわ、私なんかが、どうしてよりつけるものですか」
と言って浮かない顔をした。そして指をおって計《かぞ》えた。それは蓮香のくる約束の日を計えるところであった。約束の十日はもう来ていた。李は言った。
「明日の晩、私、そっと蓮香さんを窺いてみるわ、知らさないでちょうだいね」
翌晩になって蓮香が果して来た。二
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