は言った。
「そのかたがいらしたら、私が帰りますわ、私、そんな人達とは違ってますから、あなたさえ黙っていらっしゃるなら、その方がいらしたら私が帰り、その方が帰ったら、私が来ますわ」
 ※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《にわとり》が鳴いて女は帰って往った。帰る時|繍《ぬい》のある履《くつ》を一つくれて言った。
「これは私の足につけていたものよ、これをいじって私のことを思ってくださると、私がいつでもまいりますわ、でも人のいる所ではいじらないようにね」
 桑はもらってそれを見た。結び目を解く錐《きり》のような爪端《つまさき》のそったものであった。桑は心でひどく悦《よろこ》んだ。翌晩になって蓮香もこないので、桑はかの履を出して女のことを思いながら弄《いじ》った。すると李は飄然と来た。二人はまた、仲好く話しこんだ。
 それを初めとして履を出して思うたびに李が来た。桑はふしぎに思って訊いた。
「どうして解るのだね、僕が履を出すことが」
 李は笑って言った。
「そりゃ、私がこようと思ってる時に、ちょうどあなたが履を出すのでしょ」
 ある夜蓮香が来て驚いて言った。
「あなたは、なぜこんなに弱
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