、桑は女の言葉を疑わなかった。そこで燭《ひ》を消して二人で話した。
女はそれから三日目か四日目にはきっとくるようになった。ある夜、桑が独り坐って女のことを思っているとひらひらと入ってきた女があった。桑は蓮香が来たと思ったので起って往って迎えた。
「よく来てくれたね」
と言いながらその顔を見た。それは蓮香と違った女であった。年も僅かに十五六に見える、袖の長い、髪をおさげにした、たおやかな少女であった。桑はひどく驚いて狐ではないかと思った。女は言った。
「私、李《り》という家の女ですの、あなたの高雅な人格をお慕いしております、どうか忘れないでね」
桑は喜んでその手を握ったが、手は氷のように冷たかった。桑は訊いた。
「なぜ、こんなに冷たいのです」
「小さいこんな体で、寒い所を来たのですもの」
そして女はまた言った。
「私は年がゆかないのに、体が弱いのです、それに急にお父さんとお母さんを亡くして、世話をしてくれる方がありませんの、あなたのところへおいてくださらないこと、あなたは奥さんがおありになって」
桑は言った。
「べつにそんな者はないが、ただ隣の妓がくるが、いつもはこない」
女
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