って三年になります」
燕児は指を折って考えた。蓮香が歿くなってちょうど十四年になっている。またつくづくと女を見ると容貌から態度まで蓮香とそっくりであった。そこでその首筋を折って言った。
「蓮香姉さん、蓮香姉さん、十年して逢うと言った約束は嘘《うそ》ではなかったのですね」
女はたちまち夢が醒めたようになって胸がひらけた。
「あ」
そこで燕児をつくづく見た。桑は笑って、
「これかつて相識るの燕帰来に似たり」
と晏殊《あんしゅ》の春恨詞《しゅんこんし》の一節を口にした。すると女は泣いて言った。
「そうです、私の母が言ってました、私が生れた時、よく自分で蓮香ということを言ったものですから、不祥だといって、犬の血を飲ましたものですから解らないようになっておりましたが、今日夢の醒めたようになりました」
そこで共に前生の話をして、悲喜こもごもいたるという有様であった。寒食《かんしょく》の日になって燕が言った。
「今日は、蓮香姉さんにおまいりをする日ですよ」
そこで三人で蓮香の墓へ往った。春草が離々《りり》と生《は》えて、墓標に植えた木がもう一抱えになっていた。女はそれを見て吐息した。燕児
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