及第して挙人となったので、家も漸く裕《ゆたか》になった。狐児は頗る慧《りこう》であったが、どうも体が弱くてよく病気に罹った。燕児はそれが育たなくなっては大変だと思ったので、いつも桑に妾を置けと言っていた。
 ある日、婢《じょちゅう》がきて一人の老婆が女の子を併れてきて、売りたいと言っていると知らした。燕児が呼び入れさした、そして燕児は女の子を見るなり、ひどく驚いたように言った。
「蓮香姉さんが、またいらしたわ」
 桑も出て往って見た。それは蓮香にそっくりの女であった。桑も駭いた。桑は訊いた。
「年はいくつだね」
「十四でございます、はい、旦那様」
「金はいくらだ」
「この年寄の一人しかない児でございますが、いいお家で御厄介になって、私が御飯が食べる所ができて、後日のたれ死をしないようでございますなら、結構でございます」
 桑は金を多く取らして女を家に置いた。燕児は女の子の手を握って密室へ入って往って、その襟に手をかけて笑った。
「おまえは、私を知らないの」
 女は言った。
「知りません」
「苗字は何というの」
「葦《い》といいます、父は徐城《じょじょう》で醤油を売っておりました。歿くな
前へ 次へ
全25ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング