て、昼は草木によっかかり、夜は足にまかせて、浮き沈みしていて、ふと章の家へ往って、少女が榻の上に寝ているのについたのです」
蓮香は黙々としてそれを聞きながら心に思うことがあるようなふうであった。それから二箇月して蓮香は一人の児《こども》を生んだが、産後にわかに病気になって、日に日に重くなって往った。蓮香は燕児の手を取って言った。
「児を頼みますよ、私の子はあなたの子だから」
燕児は泣いた。姑《しゅうとめ》がなぐさめて医師を呼ぼうとしたが蓮香は聞かなかった。蓮香の病気はますます重くなって、息ももうかすかになった。桑と燕児は声をあげて泣いた。すると蓮香が目を見はって言った。
「泣かないでください、あなた達は生きるのが楽しみだが、私は死ぬのが、楽しみですよ、もし縁があるなら、十年の後にまたお目にかかりますよ」
蓮香はそう言ってから死んでしまった。蒲団を開いて死骸を収めようとすると狐になった。桑は不思議な物として見るに忍びないので手厚く葬った。桑は蓮香の生んだ子の名を狐児とつけた。燕児は自分の子のようにして愛し、清明の節には必ずそれを抱いて蓮香の墓へ往った。
後《のち》十年、桑は郷試に
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