げることができないので、とうとう着物を着たままに寝たが、その体をかがめると二尺にもたりなかった。蓮香はますます憐《あわれ》んだ。そして桑が眼を覚ました時には李はもういなかった。
後、十日あまりになったが李は再びこなかった。桑は李に逢いたいがこないので、いつも履を出して弄った。蓮香は言った。
「ほんとうに綺麗な方ですわ、女の私が見てさえ可愛いのですもの、男の方は、ね、え」
桑は、
「せんには履を弄るとすぐ来たから、疑うことは疑っていたものの、鬼ということは思わなかったよ、今、履を見てその容《さま》を思うことは、ほんとに堪えられないね」
と言って涙を流した。
その時紅花埠に章という富豪があった。十五になる燕児《えんじ》という字《おさなな》の女があって、結婚もせずに歿くなったが、一晩して生きかえり、起きて四辺を見たのち奔《はし》り出ようとした。女の父親があわてて扉を閉めて出さなかった。女は言った。
「私は通判の女の魂ですよ、桑さんに愛せられているのです、だからあすこに私の履が遺してあります、私はほんとうに鬼ですよ、私をたてこめたって何の益にもなりません」
女の父親はその言葉によりど
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