。李は立ちすくんでしまった。桑は李を責めた。
「俺をたぶらかしやがって、なんだ、きさまは、言え、言っちまえ」
 李は答えることができなかった。蓮香は笑って言った。
「私は、今、あなたと初めて顔をあわせるのですが、いつかの桑さんの病気は、私のせいだと言ったそうですが、このさまはどうしたのです」
 李は頭をさげてあやまった。
「私が悪うございました」
 蓮香は言った。
「こんな美しい方が、愛を仇にしてかえすとはどうしたものです」
 李は体を投げだして泣いた。
「悪うございました、どうか許してください」
 蓮香はそれを扶《たす》け起して精《くわ》しくその素性を訊いた。李は言った。
「私は、李通判《りつうはん》の女《むすめ》で、早く亡くなって、此所の牆《かき》の外に埋められているものです、私は死んでおりますけれども、情熱がまだ消えずにおりますから、若い方と交わりたいのが私の願いです、この方を殺そうとするのは、私の本心ではありません」
 蓮香は言った。
「あの世の人が、人の死ぬるのをいいことにしているのは、死後にいっしょになりたいからだというのですが、ほんとう」
 李は言った。
「そんなことはな
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