いのです、あの世の人ばかりが逢ったところで、なんにも楽しみはないのです、あの世の人でよければ、若い方はいくらでもあります」
 蓮香は言った。
「馬鹿ですわ、ね、え、毎日人を愛するのは、人間でさえも堪えられないのに、ましてあの世の人がね、え」
 桑が訊いた。
「狐はよく人を殺すのですが、なんのためにそうするのです」
 李は言った。
「人の精気を採って自分の精気をおぎなうものがそうするのです、私達はその類《たぐい》じゃないのです、だから人を害しない狐もあれば、人の害をしない鬼というものもないのです、これは陰気が盛だからですよ」
 桑はこの言葉を聞いて狐も鬼も皆あることを知ったが、二人とは慣れているので、それほど駭きはしなかった。ただ息が糸のようになってつまりそうになってきたので、覚えず叫ぼうとしたが声が出ずに身をもがいた。蓮香は李をみかえって訊いた。
「どうして手あてをしたものでしょう」
 李は顔を赧《あか》くしてへりくだって言った。
「すみません」
 蓮香は笑った。
「なに、まだ体は強いのですから、まだやいてもいいのですよ」
 李は襟を直して言った。
「もし、何処かに名医がありますなら、
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