を見た。李はもう往ってしまっていなかった。それから李はこないようになった。桑は何人《だれ》もいない斎に寝て百日の後に訪ねてくると言った蓮香のことをおもっていた。それは農夫が穀物のできるのを待つのと同じように。
ある日、同じように蓮香のことを思いつめていると、不意に簾《すだれ》をあけて入ってきた者があった。それは蓮香であった。桑の榻の傍へきて哂《わら》って言った。
「いなか者、私の言ったことがうそなの」
桑は泣いて何も言えなかったが、やっと言った。
「僕が悪かった、あやまる、どうか助けてくれ」
蓮香は言った。
「病が骨に入っては、どうすることもできないのです、私はちょっとあがりましたが、もうこれでお別れします、私はこれでやきもちでなかったことが解ればいいのです」
桑はひどく悲しんで言った。
「これというのも、この枕の下の物がいけないのだ、僕に代ってこわしてくれ」
蓮香が手をやってみると、彼の繍のある李の履があった。蓮香はそれを燈の前へ持って往って、あっちこっちとかえして見た。と、李が急に入ってきたが、蓮香を見るとそりかえって逃げようとした。蓮香は走って往って出口に立ちふさがった
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