ゃないか、こわいよ」
 蓮香が言った。
「そうじゃありませんよ、あなたの年恰好なら、三日目には精力が回復しますから、たとい狐であっても害はありません、世の中には癆※[#「やまいだれ+祭」、第3水準1−88−56]《ろうさい》の病気で歿《な》くなる人が多いのです、狐の害ばかりで死ぬるものですか、これはきっと、私のことを譏《そし》ったものがあるでしょ」
 桑は力《つと》めて言った。
「そんなものはないよ」
「ないことはありません、言ってください、さあ言ってください」
 蓮香がつっかかってくるので、桑もしかたなしに言った。
「実は一人くる者があるがね」
 蓮香は言った。
「そうでしょうとも、私はとうからあなたの弱っていらっしゃるのを不思議に思ってました、そんなににわかに体が悪くなったのは、どうしたというのでしょう、どうも人じゃないでしょう、あなたは黙っててくださいね、明日の晩にその人が私を窺いたように、私も窺いてやりますから」
 その晩になって李が来て、桑に二語三語話しかけたところ、窓《まど》の外でせきばらいの音がした。すると李は急に逃げて往った。そこへ蓮香が入って来て言った。
「あなた、大変ですよ、やっぱり人間じゃありません、疑わずに早く関係を絶つ方がよござんす、あなたは冥途が近いのです」
 桑は蓮香のやきもちだと思ったので、黙って何も言わなかった。蓮香は起って言った。
「私はあなたが、あの女の情にひかされているのを知っていますが、それでもあなたを殺すことはできませんから、明日、薬を持ってきて、病気を癒してあげます、まだそれほど病気がひどくないから十日すれば癒ります、私はあなたといっしょにいて、あなたの癒るのを待ちます」
 翌晩蓮香は薬を持ってきて桑に飲ました。間もなく桑は腹の中がさっぱりして精神が爽やかになった。桑は心の中で蓮香に感謝したが、しかし鬼病《きびょう》とは思わなかった。蓮香はその夜から桑の榻《ねだい》につきっきりになっていた。
 数日の後に桑は体も肥えてきた。そして、桑の体がもとのようになると蓮香は帰って往ったが、別れる時にだめをおした。
「よござんすか、きっと関係を絶つのですよ」
 桑は関係を絶つ気はなかったが、めんどうだから、
「いいとも、きっと絶つよ」
 と言った。そして、蓮香を送り出して扉を閉め、燈をかきたててかの履を出して弄りながら李のことを思っ
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