っていらっしゃるのです、顔色も悪いじゃありませんか」
 桑は言った。
「そうかなあ、自分では解らないが」
 蓮香はそこで挨拶して帰って往った。帰る時十日目に逢おうという約束をした。蓮香の帰った後で李がまた来た。李の来るのは毎晩でこない晩はなかった。ある夜李が言った。
「あなたの好い人は、この比《ごろ》、ちっともお顔を見せないじゃないの」
 桑はそこで、
「十日目にくるという約束をしてあるのだよ」
 と言った。すると李が笑って言った。
「あなたは、私と蓮香さんと、どっちが佳い女だと思いますの」
「それは、どっちも佳い女だよ、ただ蓮香の方は肌が温かだがね」
 と桑は言った。李は顔色を変えて、
「あなたは、どっちも佳い女だとおっしゃるのですが、それは私に言うからでしょ、蓮香さんは月宮殿の仙女だわ、私なんかが、どうしてよりつけるものですか」
 と言って浮かない顔をした。そして指をおって計《かぞ》えた。それは蓮香のくる約束の日を計えるところであった。約束の十日はもう来ていた。李は言った。
「明日の晩、私、そっと蓮香さんを窺いてみるわ、知らさないでちょうだいね」
 翌晩になって蓮香が果して来た。二人は室に入って面白そうに話していた。そして枕についた時は蓮香はひどく駭《おどろ》いて言った。
「まあ、十日みないうちに、こんなにお体が悪くなったのですか、あなたはほかに好い方があるのでしょ」
 桑は言った。
「どうしてそれが解る」
「私が神気でためしてみると、脈搏が乱れているのです、これは憑《つ》きものがしてるのですよ」
 翌晩になって李がきた。桑は言った。
「ゆうべ蓮香を窺いたの、どうだったね」
 李は言った。
「綺麗な方だわ、だけど、どうも人間にあんな綺麗な方はないと思ったら、やっぱり狐ですよ、私は蓮香さんが帰るとき、後からつけて往くと、南の山の穴へ入ったのですもの」
 桑はそれは李のやきもちだろうと思ったので、いいかげんにあしらっていた。その翌晩になって蓮香が来た。桑は冗談に言った。
「僕はほんとうとは思わないが、ある人が君を狐だというのだよ」
「何人です、何人がそんなことを言ったのです」
 と蓮香はせきこんで訊いた。桑は笑った。
「僕の冗談だよ」
 蓮香は言った。
「狐だって、どこに人とちがうところがあります」
「狐は人を惑わすじゃないか、狐に憑かれて病気がひどけりゃ、死ぬるじ
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