た。と李がたちまち来たが数日隔てていたのでひどく怨んでいるようであった。桑は言った。
「蓮香が僕の病気を癒してくれたから、逢われなかった、まあ、そんなにおこらないがいい、皆僕の心の中にあることなのだから」
 そこで李の感情がやわらいできた。桑は李の耳に囁いた。
「僕は、君を愛しているのだが、君を人間じゃないというものがあるがね」
 李は黙ってしまった。そして、暫くして怒りだした。
「きっと、あの狐が言ったのだわ、もし、あなたが、それと関係を絶たないなら、私もうこないわ」
 とうとう李はなきじゃくりをはじめた。桑は困って、いろいろ言ってなだめたので、やっとおさまった。
 その翌晩蓮香が来たが、李のまた来たことを知って怒った。
「あなたはそんなに死にたいのですか」
 桑は笑って言った。
「君はあんまりやきすぎるよ」
 蓮香はますます怒った。
「あなたが死病の根を植えつけたのを、私がやっと除《と》ったじゃありませんか、やかないあの人は、あなたをどうしようというのです」
 桑はそこで女の言葉をはぐらかそうと思って、冗談を言った。
「あれが言ったが、この間の病気は狐の祟《たたり》だってね」
「そうですか」
 と蓮香はためいきをして、
「ほんきであなたがそうおっしゃるなら、あなたの迷いはさめていませんから、あなたにもしもの事があった時、私はなんといっても言いわけのしようがありませんから、私はこれから帰ります、百日の後にあなたを榻の中にお訪ねします」
 桑は留めようとしたがきかずに怒って帰って往った。それから李が毎晩のようにくるようになった。約二箇月ばかりすると桑は自分の体のひどくつかれたことを感じた。しかし、初めはたいしたこともあるまいと思っていたが、日ましに瘠せて弱ってきて、粥《かゆ》を一ぱい位しかたべられないようになった。自分の家へ帰って静養しようかと思ったが、李にみれんがあって思いきって帰ることもできなかった。ぐずぐずしているうちに数日経ったので、病気が重くなって起きることができなくなった。
 隣の男は桑が病気で起きられないようになったのを見ると、日々給仕に言いつけて食物を送ってこさした。その時になって桑ははじめて李を疑いだした。そこで李に言った。
「僕は蓮香の言葉を聞かなかったから、こんなになった」
 そう言ったまま桑は息を絶やしたが、暫くして生きかえって四辺《あたり》
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