きょもう》来り、宮外に盤踞《ばんきょ》し、内外臣民を呑食《どんしょく》する一万三千八百余口、過ぐる所の宮殿、尽《ことごと》く邱墟《きゅうきょ》と成りて等し。因《よっ》て臣勇を奮い前《すす》み窺いて、確かに妖蟒《ようもう》を見る。頭、山岳の如く、目、江海に等し。首を昂《あ》ぐれば即《すなわ》ち殿閣|斉《ひと》しく呑み、腰を伸ばせば則ち楼垣尽く覆《くつがえ》る。真に千古末だ見ざるの凶、万代遭わざるの禍、社稜宗廟《しゃしょくそうびょう》、危、旦夕《たんせき》に在り。乞う皇上早く宮眷《きゅうけん》を率《ひき》いて、速やかに楽土に遷《うつ》れよ云云。
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 竇は読み畢《おわ》って顔の色が土のようになった。その時宮女が奔《はし》って来て奏聞《そうもん》した。
「妖物《ばけもの》がまいりました。」
 宮殿の中は哀しそうに泣く泣き声で満たされた。それは天日もなくなったような惨澹《さんたん》たるものであった。王はあわてふためいて何をすることもできなかった。ただ泣いて竇の方を向いていった。
「子供はもう先生に願います。」
 竇は息をきって帰った。公主は侍女と首を抱きあって哀しそうに泣
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