まられるから、精しくしらべておくのです。こうしておけば、もし、これが夢であっても、想いだすことができるのですから。」
 竇の戯れ笑う声がまだおわらないうちに、一人の宮女があたふたと走って来ていった。
「妖怪《ばけもの》が宮門に入りましたから、王は偏殿《へんでん》に避けられました、おそろしい禍《わざわい》がすぐ起ります。」
 竇は大いに驚いて王の所へかけつけた。王は竇の手を執《と》って泣いていった。
「どうか棄てないで、国の安泰をはかってくれ。天が、※[#「((山/(追−しんにゅう)+辛)/子」、第4水準2−5−90]《わざわい》を降して、国祚《こくそ》が覆《くつがえ》ろうとしておる。どうしたらいいだろう。」
 竇は驚いて訊いた。
「それはどんなことでございます。」
 王は案《つくえ》の上の上奏文を取って竇の前に投げた。竇は啓《あ》けて読んだ。それは含香殿《がんこうでん》大学士|黒翼《こくよく》の上奏文であった。
[#ここから2字下げ]
含香殿大学士、臣黒翼、非常の妖異を為す、早く郡を遷《うつ》し、以て国脈を存することを祈る。黄門《こうもん》の報称に拠るに、五月初六日より、一千丈の巨蟒《
前へ 次へ
全11ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング