いていた。竇が入ってゆくのを見ると公主は衿にとりついていった。
「あなたは、なぜ私をすてておくのです。」
竇は公主がいたましくてたまらなかった。そこで腕に手をかけて抱きかかえるようにしていった。
「わたしは貧しいから、立派な邸宅のないのを慚《は》じます。ただ茅廬《あばらや》があります。しばらく一緒に匿《かく》れようではありませんか。」
公主は目に涙をためていった。
「こんな場合です。そんなことをいってる時ではありません。どうか早く伴《つ》れてってください。」
竇はそこで公主を扶けて宮殿を逃げだしたが、間もなく家へ着いた。公主はいった。
「これなら安心です。私の国に勝っております。私はこうしてあなたについてまいりましたが、お父様とお母様はどこにおりましょう。どうか別にも一つ家をたててください。国の者も皆まいりますから。」
竇は貧しいので急に家を新築することはできなかった。竇は困った。公主は泣き叫んでいった。
「妻の家の急を救ってくだされないで、夫がどこに必要です。」
竇はそれをなぐさめて自分の室へ入った。公主は牀《とこ》につッぷしたなりに啼《な》き悲しんでよさなかった。竇は心を
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