ができないなら、強《し》いはしないが、もし君が心にかけていてくれるなら、更に改めてお迎えをしよう。」
 とうとう彼の褐衣の内官に命じて、竇を送って帰らした。その途中で内官は竇にいった。
「さっき王が婚礼をさすといったのは、あなたを※[#「馬+付」、第4水準2−92−84]馬《ふば》にして結婚させようとしていたようですよ。なぜ黙っていたのです。」
 竇は足ずりして悔んだがおっつかなかった。そこでとうとう家に帰った。帰ったかと思うと忽ち夢が醒めた。簷《のき》には夕陽が残っていた。竇は起きて目をつむってじっと考えた。王宮へいったことがありありと目に見えて来た。晩になって竇は、斎《へや》の燭《あかり》を消して、また彼の夢のことを思ったが、夢の国の路は遠くていくことができなかった。竇はただ悔み歎くのみであった。
 ある晩、竇は友人と榻《ねだい》を一つにして寝ていた。と、忽ち前の褐衣の内官が来て、王の命を伝えて竇を召した。竇は喜んでついていった。
 竇は王の前へいって拝謁した。王は起って竇の手を曳《ひ》いて殿上にあげ、すこし引きさがって坐っていった。
「君がその後、子供のことを思ってくれたことを知
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