がら公主が出て来た。それは十六、七の美しい女であった。王は公主に命じて竇を展拝さしていった。
「これが蓮花です。」
 公主はすぐいってしまった。竇は公主を見て心を動かした。彼は黙りこんでじっと考えていた。王は觴《さかずき》をあげて竇に酒を勧めたが、竇の目はその方にいかなかった。王はかすかに竇の気持ちを察したようであった。そこで王がいった。
「子供はもう婚礼させなくてはならないが、ただ世界が違っているのを慚《は》じるのだ。どう思う。」
 竇は癡《ばか》のように考えこんでいたので、そこでまたその言葉が聞えなかった。竇の近くにいた侍臣の一人が竇の足をそっと踏んでいった。
「王が觴をあげたが君はまだ見ないですか。王がいわれたが君はまだ聞かないですか。」
 竇はぼんやりしていて物を忘れたようであった。そこで気がついてひどく慚じた。席を離れていった。
「臣は優渥《ねんごろ》なお言葉を賜りながら、覚えず酔いすごして、礼儀を失いました。どうかおゆるしくださいますように。」
 そして竇が退出しようとすると起っていった。
「君に逢ってから、ひどく好きになった。なぜそんなにあわてて帰られる。君がもういること
前へ 次へ
全11ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング