《としごろ》の女《むすめ》となった。
 女は美しかった。村の壮《わか》い男の眼にその姿があった。それは秋の黄昏《ゆうぐれ》のことであった。狩装束をした服装《みなり》の立派な武士が七八人の従者を伴《つ》れて来た。従者の手には弓や鉄砲があった。
「身分は憚るが、この方は御領内でも聞えた方じゃ、一夜の宿を頼もう」
 従者の一人がお作と女の顔を見て云った。その傍には初老に近い顔の沢《つや》つやした主人が立っていた。お作と女は貴人の宿をした覚えがないから、まごまごして返事もできなかった。武士の方ではそんなことにはかまわず、さっさと上へあがって従者の持っていた割子や吸筒を出して酒の用意をした。割子には柿などがあった。
「お酌をさすがよかろう」
 従者がお作に云った。女はおずおずとその前へ出て酌をした。
「その方達にも、盃をとらする」
 主人の武士が、盃を出すと従者達はそれを順々にまわして往った。女はそれにいちいち酌をした。
 主従は酒に酔うてきた。主人は白い歯を出して折おり笑った。お作もその傍へ出て女に不調法のないように注意していた。
「この家には、魔物を払うた時に、旅僧からもらった木札があると云
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