うことじゃが、ほんとうか」
と、従者の一人が云いだした。
「ほんとうでございます」
と、お作が云った。
「それを一つ見せてもらおうか」
お作は人に見せる仮の木札をこしらえてあった。彼女は立って往って棚の隅から木札を持って来て渡した。
「これか、これか」
と、従者はそれを手に執ってからすぐ主人の方へさしだして、
「これが、その木札でございますそうで」
「そうか、これか、これがあれば大丈夫じゃな」
主人はまた白い歯を出して笑ってそれを袂に入れてしまった。お作は不審した。
「これから、御主人はお休みになるから、女子《むすめご》にお伽をさせるがよかろう」
従者はお作の顔を見た。お作は当惑した。
「どうだ、お伽をさしても好いだろう」
「これは、彼《あ》の」
お作は厭と云いきりたかったが、その怒を恐れて口籠った。
「厭と云うのか」
「女はまだ小供でございますから、どうか」
「小供でも許さん」
女《むすめ》は逃げようとした。従者はその手をぐっと掴んだ。お作ははらはらした。が、ふと、木札を入れた主人の怪しいそぶりに心が往った。十八年目に祟りがある、二歳であった女が二十歳になった。もしや
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