妖怪記
田中貢太郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)投《ほう》りだしたり
−−
お作の家には不思議なことばかりがあった。何かしら家の中で躍り狂っているようであったり、順序を立てて置いてある道具をひっかきまわしたり、蹴散らしたり投《ほう》りだしたり、また、お作がやっている仕事を何者かが傍から邪魔をして、支えたり突きやったり、話していることを傍で耳を立てて聞いていたり、それを仲間同士で嘲ったり、指をさして笑ったり、それは少しも眼には見えないけれども、何かしら奇怪なことばかりであった。
お作は不安で心配でたまらなかったが、さてどうすることもできなかった。ところで某夜《あるよ》、寝かしていた女の児が顔でもつねられたか、耳でもひっぱられたかと思うように大声で泣きだしたので、眼を醒してみると、小供の枕頭から煙草の煙のかたまったような小坊主が、ひょこひょこと起ちあがって往くようになって消えた。お作は魔物の正体を見たように思ったが、朝になってみるとそれが夢のようにも思われだした。
雨のぼそぼそと降る夜であった。お作が便所に往っていると、便所の簷下《のきした》で背
次へ
全7ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング