、私を地炉へ案内してくだされ、はろうてしんぜる」
お作は旅僧を案内して庖厨《かって》の土間へ入った。旅僧はずだ袋の中から赤い小さな紙片を二三枚出して、何か唱えながらそれを地炉の火に入れた。家の中の空気が銀線を張ったようにぴんとなったかと思うと、急に風の吹くような音がしだした。それといっしょに赤い紙はめらめらと燃えてしまった。
「これで魔物は封じてしまったが、ただ一つ逃げた奴がある、ついすると、十八年目に祟りをするかも知れんから、その時の用意にこれをしんぜて置く」
旅僧は懐から一寸ばかりある木の札をだしてそれをお作の手に載せた。それは二三字の怪しい文字を刻みつけたものであった。
「これは人の手に渡してはならん、人が見せてくれと云うたら、偽物を見せさっしゃい」
「ありがとうございます」
「それで、十八年目に怪しいことがあったら、それを火に入れさっしゃい」
旅僧はこう云ってお作が礼を云おうとするのも待たないで飄然として往ってしまった。
お作は女の子が生れるとともに夫に死なれていたから、他に家内と云うものがなかった。お作は女の手一つで夫の形見を育てていたが、何時の間にかその小供も年比
前へ
次へ
全7ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング