へ往こうと思って飯を喫っていると、門口で錫杖を鳴らす音がした。お作はその音を聞くと何んだか体がすっきりしたように思って、傍の笊にあった黍《きび》の餅を二つばかり持って出て往った。ぼろぼろの法衣《ころも》を着た、痩せて銀のような腮鬚《あごひげ》を生やした旅僧が立って念仏を唱えていた。
「お坊さん、茶もおいりようなら、茶も沸いております」
お作は黍の餅をさしだしながら云った。旅僧はその餅を受けて首にかけた麻のずだ袋に収め、それから欠椀を出した。
「お気の毒じゃが、それでは、お茶を一ぱいいただきたい」
お作は欠椀にお茶を汲んで来た。
「これはかたじけない」
旅僧は押し戴いてその茶を旨そうに飲んだが、飲みながらお作の顔を見て云った。
「お前さんは、この比《ごろ》魔物にくるしめられておると見えるな」
お作は驚いた。
「はい、不思議なことがございまして、恐ろしゅうて恐ろしゅうて、今日はこれから、親類の処へ往って、お加持を頼みたいと思うておるところでございます」
「そうだろう、魔物が来て憑いておるが、心配することはない、私がはろうてしんぜよう」
「これは、どうもありがとうございます」
「じゃ
前へ
次へ
全7ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング