暗んだようになった。
「さあ、もうすこし前へ往こう」
 鬼使の一人がそう言って前の方へ歩くので、※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は逃げ走るようにそれに随いて往った。叫喚楚毒《きょうかんそどく》の声は車の廻るように耳の中で渦を捲いていた。
 ※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の眼の前に、銅のような横倒しにしてある二つの柱があって、その上に裸体の男と女が一人ずつ縛られているのが見えた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]はいくらか心にゆとりができていた。
 門口にいた守衛のような角のある体の青い夜叉《やしゃ》が、どこからくるともなしに刀を持って出てきて、男の方に近寄るなり、いきなりその刀を男の腹に突込んで切り裂いた。男は叫ぶ間もなかった。赤黒い血が四辺に散った。と、同時にその臓腑が流れ出た。
 女の方はそれを見て叫びながら縛られている手足を動かしだした。夜叉はそんなことには頓着なく、男の腹を裂いて血みどろになった刀を持って往ってまたその腹に突き刺した。女の声はばったり絶えた。その傷口からも血といっしょに臓腑が流れ出た。
 そこへ他の夜叉が湯気
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