右衛門の女房の累じゃ、与右衛門は、わしが容貌《きりょう》が悪いから、わしを絹川へ突き落したによって、その怨念《おんねん》を晴らすために来た、今、与右衛門は逃げて法蔵寺に隠れておる、あれを呼んで来てわしと対決さしてくれ」
 村の者はお菊の詞《ことば》が累そっくりであるからとにかく与右衛門を呼んで来て逢《あ》わしたうえで、宥《なだ》めることが出来るなら宥めようと思って与右衛門を呼びに往った。与右衛門は悪事が露見しては困ると思って、
「それは跡方《あとかた》もないことじゃ、あれは狐《きつね》か狸《たぬき》が憑《つ》いておる」
 と、云って尻込みしていたが、村の者が強《し》いて云うのでしかたなしに家に帰って来た。お菊は与右衛門の顔を見ると、
「おのれ与右衛門、おのれは、狐狸と云うて、村の衆の前をつくろおうとしておるが、おのれのしたことを何人《だれ》も知らないと思っておるか、たしかな証拠人があるぞ」
 と云った。与右衛門は何も云えなかった。すると村の者の一人が聞いた。
「その証拠人は何人《だれ》だね」
 お菊は叫ぶように云った。
「法恩寺村《ほうおんじむら》の清右衛門《せいえもん》じゃ」
 与右
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