衛門はどうすることもできなかった。村の者は今更与右衛門を成敗さすに忍びないので、与右衛門に出家さして累の菩提《ぼだい》を弔わすがいいだろうと云うことになった。その時名主の庄右衛門《しょうえもん》は、二三人の同役を伴《つ》れて家へ来てお菊に云った。
「お前の怨《うら》みは、与右衛門にあるではないか、なぜお菊を苦しめる」
するとお菊は起きなおって云った。
「それは仰せのとおりでございますが、与右衛門にとりついて、すぐ責め殺したのでは、懲《こ》らしめになりません、こうしてお菊を悩ますのも、与右衛門に苦痛を見せるためであります」
とても宥めたくらいでは累の怨霊《おんりょう》は退《の》かないと云うので、祈祷者《きとうしゃ》を呼んで来て仁王法華心経《におうほっけしんきょう》を読ました。お菊はそれを遮《さえぎ》った。
「そんなお経を幾万遍読んでも駄目じゃ、わしの地獄の業数《ごうすう》を救うてくれるなら、念仏を唱えてくれ」
名主はそこで法蔵寺の住職を呼んで、二十六日の夜念仏《よねんぶつ》を興行さしたところで、累の怨霊が退散してお菊は元の体になった。しかし、累の怨霊はその後も二度ばかり来てお菊を悩
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