累物語
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)承応《しょうおう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|巳年《みどし》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な
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 承応《しょうおう》二|巳年《みどし》八月十一日の黄昏《ゆうぐれ》のことであった。与右衛門《よえもん》夫婦は畑から帰っていた。二人はその日朝から曳《ひ》いていた豆を数多《たくさん》背負っていた。与右衛門の前を歩いていた女房の累《かさね》が足を止めて、機嫌悪そうな声で云った。
「わたしの荷は、重くてしようがない、すこし別《わ》けて持ってくれてもいいじゃないか」
 与右衛門はそれを聞くと、
「絹川《きぬがわ》の向うまで往ったら、皆、おれがいっしょにして、持ってやる、それまで我慢しな」
 と云った。そこは下総国《しもうさのくに》岡田郡《おかだごおり》羽生村《はにゅうむら》であった。
「そう、それじゃ」
 累は牛のように
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