のそのそと歩きだした。そして、絹川の土手にとりついた比《ころ》には、※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な樺色《かばいろ》に燃えていた西の空が燻《くすぶ》ったようになって、上流《かわかみ》の方は微《うっ》すらした霧がかかりどこかで馬の嘶《いなな》く声がしていた。与右衛門は歩き歩き途《みち》の前後に注意していた。その与右衛門の眼には凄味《すごみ》があった。
二人が淡竹《はちく》の間の径《みち》を磧《かわら》の方におりて土橋にかかったところで、与右衛門は不意に累の荷物に手をかけて突き飛ばした。累の体は一とたまりもなく河の中へ落ちて水煙を立てたが、背負っている豆があるのですぐ浮きあがって顔をあげた。それは醜い黒い顔であった。与右衛門はそれを見ると背負っていた豆を投げ捨てるなり、河の中へ飛び込んで悶掻《もが》きながら流れて往く累を荷物ぐるみ水の中へ突きこんだ。
与右衛門はそうして累を殺し、あやまって河に落ちて死んだと云って、その死骸《しがい》を背負うて家に帰り、隣の人の手を借りて旦那寺《だんなでら》の法蔵寺《ほうぞうじ》の墓地に埋葬した。与右衛門は元貧しい百姓の伜《せがれ》
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