は皆集まってきてその数が既に満ちた。ぼろぼろになった法衣を着た道士がその後からきた。
「私も斎に与《あずか》りたい」
家の者は道士の前へ往って断った。
「もう千人に足ったから、斎をする訳にゆかない」
「それでも、わざわざやってきたものじゃ、すこしでもして貰いたい」
家の者はしかたなく一鉢の食物を持って往って道士にやった。道士はその食物を喫《く》って空になった鉢を案《つくえ》の上に覆《ふ》せて帰って往った。
家の者はそれを持って往こうとしたが、鉢が案にくっついて動かない。しかたなしに五六人で、力を合わして取ろうとしたがそれでも動かなかった。
秋壑は奇怪な報らせを聞いて出てきて、ちょっと手をやると何のこともなしに取れてしまった。その鉢の下に紙片があって「好く休する時を得て即ち好く休せよ、花を収め子《み》を結んで錦州に在り」という詩句が書いてあった。
「乞食坊主が悪戯《いたずら》をしてある」
秋壑は嘲笑いながら入って往ったが、その二句の文字に彼の未来が予断せられていた。彼は間もなく失脚して循州に謫《たく》せられたが、障州の木綿庵《もくめんあん》に着いて便所へ往こうとする所を、鄭虎臣
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