普通の細君のように仕えた。源はその女から囲碁を習ったが、上達が非常に速《すみやか》で、僅の間にその地方第一の碁客《きかく》となった。
 少女は時とすると賈秋壑のことを話した。ある時、秋壑は水に臨んで楼で酒を飲んでいた。傍には秋壑の寵姫《ちょうき》が綺麗に着飾ってたくさん坐っていた。欄干の下を一艘の小舟が通って往ったが、舟の中には二人の黒い巾《ずきん》をつけて白い服を著た美少年が乗っていた。それを見つけた女の一人は、
「綺麗な男だよ」
 と思わず言った。その言葉が秋壑の耳に入った。
「それほど、あの男が好きなら、それと結婚さしてやろう」
 秋壑はこう言って冷たい笑いかたをした。女は秋壑が冗談を言ったものだろうと思って、これも笑いながらやはりその眼を舟の少年の方へやっていた。
 やがて酒の座が変った。秋壑はまたそこで盃を手にした。侍臣が一つの盒《はこ》を持ってきた。
「よし、そこへ置いとけ」
 侍臣は盒を置いてから引きさがった。
「皆、その盒を開けて見ろ、かの女の嫁入|準備《じたく》が入っている」
 傍にいた女の一人がその盒の蓋を開けた。鮮血に汚れた女の首がその中に入っていた。それはかの美
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