ことで、秋壑の邸に召し出されて、秋壑が朝廷からさがって、半閑堂で休息する折に、囲碁の相手になって、愛せられておりました、その時、あなたは、蒼頭職主《げなんがしら》で、いつもお茶を持って奥へまいりましたが、あなたはお若くて美しい方でした、そのあなたを私が想うようになりました、ある晩、暗い所で、あなたをお待ちしていて、綉羅《うすぎぬ》の銭篋《ぜにばこ》を差しあげますと、あなたは私に、※[#「王+(「毒」のあしが「母」)」、第3水準1−88−16]瑁《たいまい》の脂盒《べにざら》をくださいました、二人の間は、そうした許し合った仲になりましたが、奥と表の隔てがあって、まだしみじみとお話もしないうちに、朋輩に知られて、秋壑に讒言《ざんげん》せられましたから、私とあなたは、西湖の断橋の下へ沈められました、それでも、あなたは、もう再生して人間になっておりますが、私はまだこうしております」
 少女は絶え入るように泣いた。源は少女を抱きかかえた。
「あなたの言うことがほんとうなら、それこそ再生の縁だ、これからいっしょにおって、昔の想《おもい》を遂げましょう」

 少女はその晩から源の許《もと》におって、
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