「いや、あれは、あなたが緑の衣を着ているから、その緑から連想して、あんな冗談を言ったばかしで、決してそんな心で言ったではなかったのです」
「そういうことならよろしゅうございますけども、私はあなたをお恨みしましたよ、しかし、それで、あなたも、私の素性をお知りになったでしょう」
「いや、私には判らない」
「もう時期がきましたから、何もかも申しますが、私とあなたとは、もと識りあっておりました、はじめて識りあったのではありません」
「そんなことがあるだろうか、私には判らないが」
源はどこで知っている女であろうかと考えたが、すぐは思い出せなかった。少女は痛痛しい顔を見せた。
「どうか驚かないで聞いてください、私はほんとうは、この世の者ではありません」
源は少女の顔を見詰めた。
「でも、決して禍をする者ではありません、あなたと私とは、夙縁《しゅくえん》があります」
源は夙縁とはどんなことであろうかと思った。
「それを聞かしてください」
「私は宋の賈秋壑《こしゅうがく》の侍女でございます、もと臨安の良家に生れた者でございますが、少《ちい》さい時から囲碁が上手で、十五の春、棊童《きどう》という
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