て朝になって帰って往ったが、それをはじめに夜になるときっと来て泊って往った。源は女が名も住所も言わないので、それを聞きたかった。
「あなたは所も言わなければ、名も言わないが、何という名です」
 ある晩、源がそう言って訊くと、少女は、
「さあ、何という名でしょう」
 と言って笑ったが、やはり名は言わなかった。
「いいでしょう、こうした関係になってるじゃないか、名を言ったっていいでしょう」
「そのうちには、あなたが厭だと思っても、わかる時がありますよ、わざわざ訊かないたっていいでしょう」
「しかし、名ぐらいは訊きたいじゃないか、聞かしてくれてもいいでしょう」
「若い奥様ができたと思ってくださりゃいいじゃないの、それでも、しいて名が聞きたいなら、私はいつも、この緑の衣《きもの》を着ているでしょう[#「いるでしょう」は底本では「いでしょう」]」
 と、片手を胸にやって、その辺《ほとり》をちょっと撫でて見せながら、
「緑衣人《りょくいじん》とでも言ってくださいよ」
 こう言って少女は面白そうに笑った。源もつり込まれて大声に笑った。
「では、緑衣人としておこう、名は、まあ、それでいいとして、所を聞
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