なりましょう」
「あなたは、おひとりね」
 源の手端《てさき》に少女の細《ほっ》そりとした手が触れた。
「ひとりですよ、寄っていらっしゃい」
 源は少女の手を軽く握った。少女は心持ち顔を赤くしたようであったが、振り払おうともしなかった。
「いいでしょう、ちょっと寄っていらっしゃい」
 源は少女の手を引いた。少女は逆らわずに寄ってきた。
 源は少女をいたわるようにして家の中へ入って往った。狭い家の中には、出る時に点《つ》けた燈が燃えていた。源は少女を自分の傍へ坐らせた。
「何人《たれ》も遠慮する者がありませんから、自由にしていらっしゃい」
 少女は始終笑顔をして源を見ていた。
「あなたは、お隣の方だと言いましたね、何方です」
「今に判りますよ」
「さあ、どこだろう」
 源はわざと仰山《ぎょうさん》に言って考えるような容《ふう》をして見せた。
「あなたは、夕方になると、いつもこの前を通っているようですが、どちらか往く所がありますか」
「別に往く所はありませんが、夕方がくると、淋しいから、歩いてるのよ」
「では、今晩は、二人でゆっくり話そうじゃありませんか」
 少女はその晩、源のもとに一泊し
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