して】聞いたかね。
李希梅 これが、【と、袖に手を入れて古い汚い書籍をだして】これがそこに落ちていたのですよ。きっとあの男が淡巴菰を喫む材料に持って来たものですよ。【と、嘲《あざ》けるように笑って】どの話をしたのです。
蒲留仙 周立五《しゅうりつご》が夢に首を易えられ、腹を洗われる話だよ。
李希梅 先生は御存じになってて、黙って聞いていらしたのですか。
蒲留仙 知ってたが、人の頭をとおすと、また面白い味のできるものだからね。
李希梅 でも淡巴菰を喫みに来るために、持って来るいいかげんな話じゃありませんか、あの男はしかたのない奴ですよ。それにありゃ、中国の者じゃありませんよ、あの髪から眼からいっても。
蒲留仙 そうかも判らない、女真《にょしん》あたりの者かも判らないね。
李希梅 そうですよ、どこの者かも判らない浮浪人ですよ。もう、これからあんな者を側へ寄せつけないがいいですよ、ばかばかしいじゃありませんか。【と、手にしていた書籍を投げるように側へ置いて、重重しい顔をして】こう申しちゃなんですが、先生あなたのような学問と文章をお持ちになりながら、こんなことをなされて一生を終られるは惜しいで
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