》って墨を含まし、一方の手に紙を持って、何かそろそろと書きはじめる。葉生はそれをじろじろ見ながらまた新らしい淡巴菰を詰めて喫《の》みだす。
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蒲留仙 面白い話だ。
葉生 その話はちょっと面白いでしょう。
蒲留仙 面白い、面白い、あれも、これも面白い。
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蒲留仙は頻《しき》りにうなずきながら筆を動かしている。葉生は黙って淡巴菰を喫みながらそれを見ている。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
蒲留仙 面白い、面白い。
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葉生は吸殻《すいがら》を吹きだして、かちりと音をさして煙管を置く。
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葉生 先生、今日はこれで失礼します、すこし急ぎますから。【と、起ちあがって、その時顔をあげた蒲留仙にちょっと会釈してから、はじめに来た方へ歩きながら】また、明日でもいい話を持って来ます。
蒲留仙 ああ、また頼むよ。
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蒲留仙はそのまままた俯向《うつむ》いて筆を動かして
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