「皆、嘘ばかりじゃ、ありゃあ小八さんと云いあわして、云っていることじゃ」と、主翁は冷やかに云った。
五
亡者宿の主翁と小八の紛争は、家主では解決が着かないようになったので、遂に町奉行所へ持ちだした。
奉行の某は関係人一同を呼びだして調べにかかった。亡者宿の主翁は飽くまでも亡者のことは知らないと云いはった。
奉行は笑いながら云った。
「立山の麓に亡者宿と云うものがあって、足の在る幽霊を家に抱えて、客の好みによって見せると云うことは、今はじめて聞いたことではない、吾等の近づきにも、その幽霊を見たと云う者があるが、それでもその方は知らぬと申すか」
主翁はふと我家へ探索の手が廻ったので、奉行があんなことを云うかも判らないと思った。主翁の顔色はすこし変った。
「……どうだ、その方はどうしても知らぬと申すか」と、奉行はいかつい眼をして主翁を見おろした。主翁の心は顫えた。主翁は思わず頭をさげた。
「恐れ入りました」
「そうだろう、足のある幽霊を抱えてるだろう、愚民を惑わして金銭を詐取するとは、不届至極の奴なれども、今日は格別の取計らいによって、宥しつかわす、早速故郷へ帰っ
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