立山の亡者宿
田中貢太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)主翁《ていしゅ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)店|頭《さき》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》
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一
小八はやっと目ざした宿屋へ着いた。主翁《ていしゅ》と婢《じょちゅう》が出て来てこの壮《わか》い旅人を愛想よく迎えた。婢は裏山から引いた筧《かけい》の水を汲んで来てそれを足盥《あしだらい》に入れ、旅人の草鞋擦のした蒼白い足を洗ってやった。
青葉に黒味の強くなる比《ころ》のことで日中は暑かったが、立山の麓になったこの宿屋では陽が入ると涼しすぎる程の陽気であった。小八は座敷へあがるなり婢が来て湯に入れと云うので、云うなりに湯殿へ往って湯に入り、濡れた手拭で顔を拭き拭き己《じぶん》の室へ帰るとすぐ主翁が来た。
「お客さんは何方《どちら》からお出でになりました」
「私は江戸から来た」
「お山へお登りに
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