なりますか」
「私は逢いたい亡者があって、此方へ来て頼めば、逢わしてくれると云うことを聞いたから、それでやって来たのだが、ほんとうに逢うことができるだろうか」
「この立山には、地獄と極楽があって、亡者が皆集まっておりますから、逢いたければ逢うことができます」
「どうしたら逢えるだろう」
「それには方式がありますから、私がやってあげますが、逢うと申しましても、この世の人でない者に逢うことでございますから、詞《ことば》をかけてはなりません。詞でもかけようものなら、姿が消えてしまって、二度と、もう見ることはできません」
「好いとも、何も云わずにいるさ」
「それでは、亡者の年齢と亡くなった日を紙に書いて、私がお経をあげて回向して置きますから、お客さんは、明日の朝、寅刻時分に、案内の男をつけてあげますから、山へお登りなさいませ、きっと亡者に逢えますから」
「それで亡者に逢ったら、どうしたら好いだろう」
「案内の男が好い場所を教えてくれますから、其処で待っておりさえすれば、亡者が来ますから、その姿が見えたら、念仏でも唱えるが宜しゅうございます、どんなことがありましても、決して詞をかけてはなりません
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