て、その幽霊どもに暇をやって、正道の宿屋家業をするが宜い、もしこの詞を用いずに、また幽霊を召抱えて人を惑わすようなことがあれば、今度はその方をほんとの足のない幽霊にするぞ」
「恐れ入りました」
「然らば小八とやらの伴れて来た幽霊にも、この場において暇をやり、小八には欺き執った金を返すが宜い」
「恐れ入りました」
 主翁の右側に坐っていた小八は得意そうに笑って見せた。

       六

 奉行所をさがった一同の者は家主の家へ往った。
 亡者宿の主翁は一両の金と、女に暇をやる証拠の書類《かきもの》を小八に渡した。
 そうなると二人の間の感情もさらりと解けた。その夜家主の家では家主老夫婦が仲人になって、小八と女に婚礼の盃をさした。亡者宿の主翁もその席に連っていた。小八には何時の間にか幽霊小八と云う綽名が出来ていた。



底本:「日本の怪談(二)」河出文庫、河出書房新社
   1986(昭和61)年12月4日初版発行
底本の親本:「日本怪談全集」桃源社
   1970(昭和45)年初版発行
入力:Hiroshi_O
校正:門田裕志、小林繁雄
2003年7月24日作成
青空文庫作成ファイル
前へ 次へ
全17ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング