ざいます」
「お前さんの忰であったか、困ったものだな」
「どうぞ、忰が長生いたしますように、一生のお願いでございます」
「人の生命は天が掌っているところだから、わしの手ではどうにもならんが」
 旅人は考えこんだがいい考えが浮んだと見えて、
「よし、それでは、他にしようがないから、ひと徳利の酒と、鹿の乾肉をかまえて置くがいい、卯の日にきっと往って、方法をしてやるから」
「ひと徳利の酒と、鹿の乾肉、承知いたしました、すぐかまえて置きますから、どうか忰が長生ができますような、方法をとってくださいますように」
「卯の日にはきっと往ってやる、かまえをして待ってるがいい」
 父親は喜んで旅人に別れ、少年と家へ帰るなり、旅人の言いつけどおり、酒をかまえ鹿の乾肉をつくって待っていた。
 二三日すると約束の卯の日がきた。趙顔と趙顔の父親は不思議な旅人の来るのを待っていた。おやつ時分になって果して旅人がやってきた。旅人は酒と鹿の肉を見てから言った。
「お前は、この酒と肉を持って、この間、麦を割っていた処から南にあたる、大きな桑の木の根本へ往くがいい、そこに二人の男がいて碁を打っている、その側へそっと坐って
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