75]川の女が来て坐っていた。夫人は泣いていた。
「今日お別れして、いつまたお眼にかかることができましょう」
 毅は銭塘君の言葉を聞かなかったが、女と別れることは苦しかった。毅は燃えるような眼をして女の方を見た。女も悲しそうな眼をして毅の顔を盗み見た。
 毅は王宮を出て帰ってきた。十余人の者が洞庭君からの贈物を嚢に入れて随《つ》いてきた。毅はのちにその贈物を持って広陵へ行って宝物の店を開いたが、瞬く間に巨万の富を得て大豪族となった。
 毅はそこで結婚することにして、張姓の家から娶ったがすぐ亡くなったので、今度は韓姓の家から娶ったが、これも二三ヶ月してまた亡くなった。
 毅はそれから金陵へ移ったが、鰥暮《やもめぐら》しでは不自由であるから、范陽《はんよう》の盧姓の女を迎えた。見るとその女の顔が洞庭の竜女に似ていた。毅は昔のことを思いだして女に竜女の話をして聞かした。一年あまりすると、それに小供が生れた。その小児が生れて一ヶ月ぐらいすると女は毅に向って言った。
「私は、洞庭の女でございます、小児が生れたからほんとのことを申します」
 そこで毅は女と連れ立って洞庭へ行った。後、毅は南海に移っ
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