珠閣《げんしゅかく》で、太陽道士と火経を講じておりますから、すぐお出ましになります」
 紫の袍《ほう》を著た貴人が侍臣に取り巻かれて宮門の方から出てきた。
「王様だ」
 武士はあわてて走って行って迎えた。紫衣《しい》の貴人は静かに入ってきた。毅は洞庭君だと思ったのでうやうやしく拝《おじぎ》をした。
「先生がここへ見えられたのは、わしに何を教えてくださるためでございます」
「私は※[#「さんずい+徑のつくり」、第3水準1−86−75]川の畔で、大王のお嬢さんにお眼にかかって、手紙をあずかりましたから、それでまいりました」
 毅は女からあずかってきた手紙を出して洞庭君の前へ置いた。洞庭君はそれを取って開けて読みだしたが、みるみるその顔が曇っていった。
「これは私の罪だ」
 洞庭君は涙の眼を毅に向けた。
「お陰で早く判ってありがたい、きっと報います」
 侍臣の一人が傍へ寄ってきた。洞庭君は女の手紙を渡して宮中へ持って行かした。
「女《むすめ》が可哀そうだ」
 宮中の方から女達の泣く声が聞えてきた。洞庭君はあわてて傍の者に言った。
「あんな大きな声をしては、銭塘《せんとう》へ知れる、何人《だれ
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