度叩いた。そして、終ってその眼を水の方へやったところで、一人の武士が水の中から出てきた。武士は毅の前へ来て拝《おじぎ》をした。
「貴客《あなた》は何方からいらっしゃいました」
 毅はこんな者に真箇《ほんとう》のことは言われないと思ったのででたらめを言った。
「大王に拝謁するために来たのです」
「では、お供をいたしましょう」
 武士は前《さき》に立って歩いて行ったが、水際《みぎわ》に出ると毅を見返った。
「すこしの間、眼をつむってくださいますように、そうするとすぐ行けますから」
 毅は武士の言うとおり眼を閉じた。毅の体は自然と動きだした。
「ここでございます」
 毅は眼を開けた。そこには宮殿の楼閣が参差《しんし》と列っていて、その間には珍しい木や草が花をつけていた。すこし行くと大きな殿堂がきた。それは白壁の柱で、砌《みぎり》に青玉を敷き、牀《こしかけ》には珊瑚を用いてあった。
「ここでお待ちくださいますように」
 武士は毅をその殿堂の隅へ連れて行った。毅はここはどうした所だろうと思って聞いた。
「ここはどこだね」
「霊虚殿《れいきょでん》でございます」
「大王はどこにいらるる」
「今、元
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