みはじめた。一所《いっしょ》に寝ていた名音は驚いて躍《と》び起きた。玉音は両手で虚空《こくう》を掴《つか》み歯を喰いしばって全身を痙攣《けいれん》させた。そして時どき苦しそうな声を出して呻《うめ》いた。隣室に寝ていた住持も其の声を聞きつけて起きて来た。二人の介抱で玉音の苦しみはすぐ治まった。
「どうなされた、お肚《なか》でも痛まれたか」
 住持の詞《ことば》に玉音は蒼褪《あおざ》めた顔をちょっと赧《あか》らめた。
「お肚ではございませんが、これが私の持病でございまして、私はこれがあるばかりに、御仏《みほとけ》にお縋《すが》りする気になったのでございます」
「御仏も御仏じゃが、医者にかかられては」
「医者にもかかりましたが、此の病気ばかりは、医者の力では駄目でございます」
「ほう、では、お医者様にも病名はわからぬのじゃな」
 玉音は黙ってうなずいた。名音は其の病気には何か訳がありそうだと思ったが、強いて聞くこともできなかった。玉音は其の夜をはじめとして毎夜のように苦しんだ。名音は其の度に眼を覚まして介抱したが、しだいに慣れて後には玉音の苦しむのも知らずにいるような事があった。
 某日《あ
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