も幾度も思いとまらせようといたしましたが、よほど思いつめておりますから、どうか人間一人を助けると思って、曲げてお許しを願いたいと思います」
 住持はどうしたものだろうかと云うような表情をして名音を見た。名音はそれほど思いつめるには、よほど苦しい過去を持っているに違いないと思って、すっかり女に同情してしまった。
「住持様、あんなにおっしゃいますから、肯《き》いておあげになっては如何《いかが》でございます」
「そうじゃな、それでは、こうして頂きましょう。今夜もう一度お考えなすって、それでも決心が変らなかったら、明日改めてお出《い》でを願いましょう」
 それを聞くと二人は喜んで帰って往ったが、翌日になって女が移って来たので、住持が最初|鋏《はさみ》を入れ後は名音の手で剃髪《ていはつ》した。其の女は玉音《ぎょくおん》という法名が与えられた。名音は何彼《なにか》と新入の玉音のために世話をしてやった。玉音は顔だちも美しく素直な女だったので、住持にも気に入られた。名音は此の調子でゆけば、世話の為甲斐《しがい》があると思って喜んだ。こうして数日すぎたところで、夜半比《よなかごろ》になって玉音が急に苦し
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