法華僧の怪異
田中貢太郎

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)掖上村《わきかみむら》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)奈良県|吉野郡《よしのぐん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](玉谷高一氏談)
−−

 奈良県|吉野郡《よしのぐん》掖上村《わきかみむら》茅原《かやはら》に茅原寺《ちげんじ》と云う真宗の寺院があった。其の寺院は一名|吉祥草院《きっしょうそういん》。其処に役行者《えんのぎょうじゃ》自作の像があって、国宝に指定せられているが、其の寺院に名音《みょうおん》と云う老尼がいた。
 私が其の名音に逢《あ》った時は、昭和三年で六十位であった。其の名音は、最初|泉《いずみ》の某と云う庵にいて有徳の住持に事《つか》えていた。
 名音が尼僧になったのは、中年になってからで、其の動機に就《つ》いては、小説にでもなりそうな哀話があるということだが、それに就いては語らなかった。
 名音が泉の尼寺へ入って二度目の秋を迎えた時のことであった。某朝《あるあさ》平生《いつも》のように朝の礼拝を終って境内の掃除をし
次へ
全9ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング