享けておることになっておるから、数年の時間を貸して、滅族の禍に罹らしめることにして、今、もう命を奉って、悪簿《あくぼ》に記したところだ」
「―郷―は、田が数十|頃《けい》あるが、貪縦《たんじゅう》で厭《あ》くことがなく、しきりに隣接地を自分の物にしているが、その手段が甚だよくない、ひとりぽっちで援《たす》けのない者を欺いて、賤《やす》く買い、中にはその定価を払わないで、相手を忿《おこ》らして死なしておる者もあるので、冥府から本司に知らしてきて、捉えて獄に入れたが、もう已に牛となって、隣の家に生れて、その負うところを弁償さしておる」
判官達の詞《ことば》が終った。発跡司の判官は眉を動かし、目を瞠って嘆声を漏らしながら言った。
「諸君はそれぞれ職を守って、善を賞し、悪を罰して、それが実に至れり尽せりというべきであるが、しかし、天地の運行には数があり、生霊の厄会には期がある、元の国統が漸く衰えてきて、大難が将《まさ》に作《な》ろうとしている、諸君が善く理《おさ》めるといっても、これはどうすることもできない」
判官の二三はいっしょに聞いた。
「それはどうしたことだ」
「吾《わし》が今度、府
前へ
次へ
全10ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング