皆外へ走って往って入ってきた官人を迎えた。前呵後殿、行列の儀衛は一糸も乱れずに入ってきた。紗燈《しゃとう》の光は朝服をした端厳な姿の官人を映しだした。
友仁はすぐこれは城隍祠の府君であると思った。官人はやがて正殿に登って坐った。するとかの判官たちが、順々にその前へ出て拝謁したが、終ると皆自分自分の司曹へ帰って往った。友仁の前へも一人の判官が帰ってきた。それはそこの発跡司の主神で、それは府君に扈従《こじゅう》して天に往っていて帰ったところであった。
今まで暗かった司曹が明るくなっていた。※[#「巾+僕のつくり」、第3水準1−84−12]頭角帯《ぼくとうかくたい》、緋緑《ひりょく》の衣を着た判官が数人入ってきて何か言いはじめた。友仁は何を言うだろうと思って案《つくえ》の下へ身を屈めて聞いていた。
「―県の―は、米を二千石持っておったが、この頃の旱魃《かんばつ》と虫害で、米価があがり、隣境から糴《いりよね》がこなくなって、餓死人が出来たので、倉を開いて賑わしたが、元価を取りて利益を取らず、また粥を焚いて貧民を済《すく》ったので、それがために命をつないでいる者が多いといって、さっき県神《け
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