逃れて、苦しまないようになりましょうか、それをお知らせくださいまして、枯魚《こぎょ》が斗水《とすい》を得るように、また窮鳥が休むに好い枝に托《つ》くようになされてくださいませ、それが万一、私の運が定っていて、後からどうすることもできなくて、一生を薄命不遇に終らねばならぬようになっておってもかまいません、どうかお知らせくださいますように」
 友仁はそのままそこへ※[#「足へん+全」、221−13]伏《せんぷく》していた。祈願の人が韈《くつ》の音をさしてその側を往来していた。友仁の耳へはその音が遠くの音のように聞えていた。
 いつの間にか夜半《よなか》に近くなっていた。祠の中はもうひっそりとしていた。と、呵殿《かでん》の声がどこからともなしに聞えてきた。友仁はこの深夜にどうした官人が通行しているだろうと思っていた。
 呵殿の声はしだいに近くなってきた。友仁は官人の何人かが秘かに参詣に来たものであろうと思って、廟門の方へ眼をやった。
 呵殿の声はもう廟門を入ってきた。官人の左右に燭《とも》しているのであろう紗の燈籠が二列になって見えてきた。と、各司曹にあった木像の判官が急に動きだして、それが
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